研究から探す

永久磁石のメカニズム 3次元画像で分析、新材料開発へ。

※この記事は2025年6月に神戸新聞へ掲載されたものです。

 「磁石」と聞いてまず思い浮かべるのは、理科の実験で使うU字形の磁石や、冷蔵庫にメモなどを留めるマグネットかもしれません。でも、私たちの生活やこれからの社会にとって、もっと欠かせない磁石が他にあります。電気自動車やハイブリッド車のモーターに使われている、強力な磁力を持つ永久磁石材料です。

 モーターには永久磁石とコイルが使われており、磁石の磁力が強ければ強いほど、モーターの効率が高くなります。つまり、同じ電力でより速く走行したり、1回の充電でより長い距離を走行したりすることが可能になります。

 現在、電気自動車用のモーターには、永久磁石材料の中で最大の磁力を持つネオジム磁石が使われていますが、この材料の性能をさらに高めるための研究開発が続けられています。

 もしネオジム磁石の磁力が2倍になれば、世界中の電気自動車の燃費がそれに伴って向上し、膨大な省エネ効果が得られます。また、ネオジム磁石は発電機にも広く使われているため、磁石の性能が向上すれば発電効率も高まることが期待されます。このように、永久磁石材料の研究開発は持続可能な社会を実現する一つの鍵だといえます。

 私たちの研究室では、この永久磁石が強い磁力を持つメカニズムを解明するため、大型放射光施設「SPring-8」(スプリング8、佐用町)の放射光を用いたナノメートルスケールの観察を行っています。

 私たちが開発したエックス線磁気CTという新しい観察方法を使うと、病院でCTスキャンをするように、磁石材料内部を透視し、磁気分布の3次元画像を撮影することができます。どれだけ細部が見えるかという分解能は医療用CTよりもはるかに高く、300ナノメートル(1万分の3ミリ)の微細な構造も識別できます。

 この方法で最先端のネオジム磁石材料を観察したところ、材料内部に含まれる直径1マイクロメートル(千分の1ミリ)の粒子のN極とS極の向きが、磁力の減少に伴って変化したり反転したりする様子を捉えることに成功しました。永久磁石内部の微粒子の、磁気分布変化を観察したのは世界で初めてです。

 現在、私たちはこの技術をさらに発展させ、微粒子の結晶方位(磁石の性質に関係する原子の配列)をも、3次元的に観察するための研究開発に取り組んでいます。

 これらのデータの解析によって永久磁石のメカニズムを解明し、新たな材料開発へとつなげることを目指し、関西学院大学の学生や学外の研究者とともに日々チャレンジを続けています。

鈴木 基寛</span> 教授

SUZUKI Motohiro

SPring-8からの放射光を用いて、磁性材料の機能発現メカニズムを研究しています。X線磁気円二色性 (XMCD) 分光を主な測定手法として、白金(Pt)や金(Au)といった大きなスピン軌道相互作用をもつ貴金属元素の磁性研究に取り組んでおり、薄膜やナノ粒子といったナノ構造において発現する特異な磁性を探求しています。