※この記事は2024年9月に神戸新聞へ掲載されたものです。
2020年10月、日本政府は50年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すと宣言しました。温室効果ガスはさまざまな経済活動や日常生活に伴って排出されていますが、発電部門の排出割合は約4割を占めており、発電部門の脱炭素化は避けて通れません。そのための技術として再生可能エネルギーや原子力発電などが挙げられますが、水素発電が新たな技術として注目されています。
海外から(製造過程で二酸化炭素=CO2=を出さない)グリーンな水素を液化して輸入し、天然ガスの代わりに水素を燃やしてガスタービンを回すことで、CO2を排出しないクリーンな発電が実現できます。神戸市では水素のサプライチェーン(供給網)の構築に向けた世界初の実証事業が行われ、姫路市にある関西電力の発電所では30年から天然ガスと水素を混ぜて発電する検討も始められています。兵庫県は世界から注目されています。
しかしながら、水素発電の電気代を下げるためには、液体水素の冷熱(冷たいエネルギー)の活用が不可欠です。気体の水素は非常に軽いため、海外から大量に輸入する場合にはマイナス253度まで温度を下げて液化して、タンカーで運ぶのが効率的です。液体水素を利用する際には常温のガスに戻しますが、この際に冷熱は大気に放散されます。この冷熱を無駄なく活用する必要がありますが、マイナス253度と非常に冷たいため簡単ではありません。
ここで超電導の出番です。超電導材料はある温度以下まで冷やすと電気抵抗がゼロになる夢の技術であり、超電導線材を銅線の代わりに使って発電機や変圧器などを製作すると、高効率で省エネな電力機器が実現できます。ただし、超電導線材を冷やすための電気代で省エネ効果が打ち消されてしまうのが課題でした。
しかし、液体水素を冷却に使えば電気代がかからなくなり、超電導の省エネ効果を最大限に生かすことができます。液体水素の冷熱を活用することで水素発電の電気代を安くできる可能性があります。
われわれは、液体水素で冷却する超電導発電機の開発に共同研究先の企業とともに取り組んでいます。小規模な発電機をできるだけ早く完成させ、実際に発電する試験などを繰り返し、30年代には実用化したいと考えています。本学では超電導発電機の開発だけでなく、神戸空港島における液体水素試験拠点の構築に関しても検討を始めました。水素サプライチェーンに関わるさまざまな大学や企業が集まって、共創する場をつくっていきたいと考えています。