研究から探す

「感性AIソムリエ」を使ったものづくり

※この記事は2022年7月に神戸新聞へ掲載されたものです。

 AI(人工知能)の進化によってコンピューターの能力が飛躍的に高まりました。この背景には、AI自らが知識を習得する深層学習の発明があったからと言われています。

 しかし知識の学習は得意なAIでも、「感性」の学習はまだまだです。知識には正解不正解がありますが、感性にははっきりした正解がありません。あいまいで個人によって違う「感性」をどのように扱えばいいのか手探りの状況です。

 私たち感性工学研究室では、ヒトの感性を分析して、感性を理解するコンピューターを実現し、付加価値の高いモノやサービスを開発する研究を進めています。ベースになるのは「感性のものさし」と呼ぶ、ヒトの感じ方の傾向を心理学実験で調べて、統計解析した数式(数学モデル)です。

 例えば化粧品メーカーと共同で作った「透明感のものさし」では、メーキャップアーティストや一般の人から素肌の透明感とメーク肌の透明感に対してイメージする言葉を挙げてもらい、集まった2千以上の言葉の間の心理的距離を測ってものさしにしました。するとメーク肌の方にだけ、「シルクのような滑らかさ」といった、触感を表す独自の概念が現れました。そこで触感が滑らかなファンデーションを開発したら、透明感の高い製品になって大好評を得ました。感性のものさしから視覚と触覚の相互作用が見つかったのです。

自分で服をデザインする「感性AIソムリエ」

 また衣服の生地の色や柄から感じる印象(落ち着いた・華やかななど)のものさしを作って、生地画像を深層学習したAIと組み合わせて「感性AIソムリエ」を開発しました。AIが学習を深く進める途中で捨ててしまうスタイル特徴という情報(犬を学習するAIなら毛並みや模様の情報)を生かして、印象のものさしと関連付けると、好みの印象で柄を検索したり、新たな柄をデザインしたりすることが可能になりました。百貨店のオーダースーツのお店や、自分のイメージにあった服をデザインするアプリ、自動車の内装材の開発でも利用されています。

感性AIソムリエを利用したファッションデザインアプリ

 一人一人の感性に真逆の違いがあることは、5月25日付の神戸新聞三田阪神版の記事「テントで作業すると創造性向上?」でも紹介されました。

 感性工学は分野や職種を問わず、産業や社会や日常生活でヒトが関わるあらゆる場面に貢献できます。一人一人の感性に寄り添った製品開発はムダを出さずにすむのでSDGs(持続可能な開発目標)にもつながります。2020年に感性価値創造インスティテュートという本学初の産学連携研究拠点が立ち上がりました。理系と文系、科学と芸術、女性と男性といった多様な視点を持つ研究者や学生が協働して新しい価値を生み出しています。

長田典子</span> 教授

NAGATA Noriko

衣服の生地の色や柄から感じる印象(落ち着いた・華やかななど)のものさしを作って、生地画像を深層学習したAIと組み合わせて「感性AIソムリエ」を開発。