研究から探す

建築デザイン 変わる都市の未来表現。 

※この記事は2024年12月に神戸新聞へ掲載されたものです。

 建築とは、歴史、文化、アート、社会動向など、その場所に関わるさまざまな事象を理解した上で、そこに広範な知見と最先端の工学技術を活用して新しい空間体験を生み出そうとする行為です。したがって、一つ一つの建築は全て異なるものとして存在するものであり、それぞれ固有の意味を有するものです。

 このように考えながら、私はこれまで建築作品を創ってきました。それぞれの作品は固有のデザインを与えられ、社会に対してメッセージを発信しようとするものです。そのために私たちはさまざまなスタディーを重ね、あらゆるノウハウを注ぎ込みますが、それでも解決できない課題に対しては新たな技術開発が必要になります。

日本初の耐火木造ビル「大阪木材仲買会館」

 その一例として、これまで都心部では耐火性能の不足から建てることができなかった木造ビルを、新たな材料開発により建築可能とし、実現しました。カーボンニュートラルという観点からも近年大きな注目を集める木造建築ですが、構造材料となる木の柱や梁(はり)の耐火性能向上のため新規技術を開発し、燃焼試験でその性能を実証して、火災にも強く建築基準法も満足する新たな木製の柱・梁の開発に成功したのです。

 そしてこれらを構造材として用いることで、日本初の耐火木造ビルを実現することができました。デザインにあたっては、この建築は木材協同組合の建物であることから、広く社会に日本の木の良さをアピールするべきと考えました。使用する木を全て国産材として、需要低迷により衰退しつつある国内の木材業界の活性化を図り、放置され荒れていく日本の森林の健全化にも貢献できるよう、木に関わる方々の熱い思いも込めて建築したものです。

 敷地内には樹齢50年を超える大きな桜の木が2本、立派な姿で立っていました。春に満開の花を咲かせてくれるこの木は、地域の人たちにも親しまれてきたこの地の歴史そのものであり、また地域の象徴とも言える木です。これをそのまま残し、緩やかに優しく取り囲むような建築デザインとすることで、この土地の歴史を継承しつつ、慣れ親しんだ桜の木と新しくなった建築がともに新たな歴史を刻んでくれるよう、願いを込めてデザインしました。

 建築デザインとはこのように、その地に固有の条件やその建築特有の課題に取り組みながら、オリジナリティーの高いデザインへと昇華させ、社会へ還元していくことだと考えています。そして建築という行為の集積を通じて、都市は「アーバンスケープ=都市の様相」を獲得していきます。

原 哲也</span> 教授

HARA Tetsuya

現代都市が呈するさまざまな様相について、建築群によって形成されてきた都市が、時代や社会の変化を受容しながらも自らのアイデンティティを築き上げてきたことを読み解きながら、新たな時代に求められる建築と都市の姿を探求しています。建築設計において私が重視するのは「アーバンスケープ=都市の様相」です。