研究から探す

微小粒子の半導体 光エネルギーを活用。

※この記事は2024年11月に神戸新聞へ掲載されたものです。

 地球温暖化や化石燃料の枯渇が問題となる今、光エネルギーの有効活用は必要不可欠です。そのため、私たちの研究室では、さまざまな物質に光が当たった時に起こる現象を詳しく調べています。対象としている物質の一つが「半導体量子ドット(Quantum Dot=QD)」です。

 少し前、半導体不足という言葉をよく耳にしました。この「半導体」は、スマートフォンや自動車、家電製品に使われるマイクロチップなどの電子部品を指していました。正確には「半導体」とは、それら電子部品の材料であり、金属のような電気を流す「導体」とゴムなどの「絶縁体」の間の性質をもつ物質のことです。代表的な半導体はシリコンで、屋根に乗っているソーラーパネルのあの黒い物質です。

 半導体をナノメートル(1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1)という極めて小さい粒子にしたものが半導体量子ドットです。QDはサイズを変えることでさまざまな色の光を放つ性質を持っています。これは「量子閉じ込め効果」によるもので、QDの特徴です。

さまざまな色の光を放つ半導体量子ドット

 QDの魅力は非常に鮮やかで強い光を放つことです。そのため、テレビやスマートフォンのディスプレーに使われると、普通のものよりも明るく、色鮮やかな映像を映し出すことができます。

 QDの応用分野は広く、医療分野ではバイオイメージングという技術に役立っており、体の内部をより鮮明に観察するために使われています。さらに、太陽電池分野でも注目されており、QDを使うことで高性能な太陽電池が開発されています。

 これらQDの素晴らしさが評価され、2023年にはQDの合成技術を確立し、基礎的な性質を明らかにした研究者らがノーベル化学賞を受賞しました。選考委員は「QDは人類に最大の恩恵をもたらしつつある。われわれはその可能性を探究し始めたばかりだ」と述べています。

透過型電子顕微鏡で観察した立方体型(左)と球型(右)の量子ドット

 QDをさまざまな分野で活用するためには、その特性をしっかり調べる必要があります。私たちの研究室では、顕微鏡とレーザーを組み合わせ、「一粒のQD」を測定する最先端の手法を用いて研究しています。QDは大きさや形により性質が変わるため、従来の「多くのQDを同時に測定する」方法だと平均的な特性しか評価できません。

 QDを一粒ずつ評価することで、人にそれぞれ個性があるように、QDの個性が分かり、目的にあった性能を持つQDを選ぶことができるのです。さらに、私たちはQD表面にさまざまな分子をくっつけることで、これまでにない機能を見いだすことに成功しています。このような研究を進めることにより、みんながいつまでも豊かに暮らせるように、光エネルギーの有効活用に貢献していきたいです。

増尾 貞弘</span> 教授

MASUO Sadahiro

「様々なナノ物質を作る」「ナノ物質を並べて機能化する」「ナノ物質の光機能を調べる」「ナノ物質の光機能を制御する」ことを中心とし、光エネルギーの高度利用を目的として日々研究を行っています。