研究から探す

複素関数論を使って可積分系の研究に取り組む。

※この記事は2020年4月に神戸新聞に掲載されたものです。

中学から高校にかけて、いろいろな関数(函数)を学びます。初等関数と呼ばれるものです。もう少し難しいものを特殊関数と呼びます。

さらに超関数というものがあります。最も有名なディラックのデルタ関数は、原点での値が無限大で他での値が0という不思議なものですが、厳密に定義すれば強力な道具になります。

主な超関数の理論は二つあり、私はそのうち佐藤幹夫先生(京都大名誉教授)による「佐藤超関数」を学生時代に勉強しました。虚数を使うのが佐藤理論のミソです。

普通どんな数でも2乗したら0以上になります。例えば、マイナス1の2乗は1です。しかし、2乗したらマイナス1になる虚数単位「i」というものを考えることができます。

「i」の何とか倍に別の数を加えたものを複素数といいます。複素数の話と微分積分を組み合わせることで「複素関数論」というきれいな理論ができ、それに基づいて佐藤超関数の理論ができました。

私は佐藤超関数からは離れましたが、複素関数論はいまでも使っています。最近研究しているのは可積分系です。可積分系を調べるためには、「リーマン・ヒルベルト問題(RHP)」が役立ちます。

複素数はxプラス「i」掛けるyという形をしていますから、複素数と平面の点を対応させることができます(横軸がx、縦軸がy)。平面に適当な曲線を描き、それと相性のよい関数を見つけるというのがRHPです。そのような曲線の一例を載せておきます。これは私の論文で使ったもので、可積分非線型シュレーディンガー方程式の解の時間無限大での様子を調べました。粒子のような振る舞いをする波(ソリトン)が現れます。

RHPを使う人は日本にはほとんどいませんが、中国には多く、そういう人が私を中国に招待してくれることがあります。私は中国で講演するとき、最初の挨拶だけは中国語で話したり、メールを中国語で書いたりするので、珍しがって招待してくれるようです。

中国出張のついでにSF(特に天体力学の三体問題を扱ったベストセラー「三体」の著者である劉慈欣のもの)やミステリー、数学、物理の本を買うのを楽しみにしています。写真に写っているのは「特殊函数概論」「三体II 黒暗森林」「文学少女対数学少女」です(あとの二つは今年中に日本語訳が出るそうです)。新型コロナウイルス感染症の流行が収まったら、また中国に行こうと思っています。

山根 英司</span> 教授

YAMANE Hideshi

複素解析の手法を用いて微分方程式の研究をしている。最近は数理物理に由来する方程式に興味がある。