研究から探す

X線天文学で迫る「星の最後の大爆発」。

※この記事は2020年12月に神戸新聞に掲載されたものです。

12月の兵庫県三田市の夜。冷たい空気と澄んだ星空に輝くオリオン座が、冬の到来を感じさせてくれます。

その星空の中に、X線で明るく輝く天体がたくさんあることをご存じですか? X線は目には見えませんが、波長がとても短い光の仲間です。

光の仲間を波長の順番に並べると、電波は波長のとても長い光の仲間です。一方、X線の波長はとても短く、目に見える光の波長が中ぐらいだとすると、電波の反対側に当たります。

宇宙からのX線は地球の大気に吸収され、地上には届きません。そのため、観測装置を大気圏の外に持っていく必要があります。X線天文衛星を開発し、宇宙からのX線を観測するのです。

X線で輝く天体の一つに、超新星残骸(ざんがい)があります。星がその一生を終える際に起こす大爆発「超新星爆発」で生じた爆発エネルギーが、宇宙空間に残したかけらです。

超新星残骸は爆発後数百年から数千年にわたり、X線で明るく輝きながら膨張しています。その直径は10光年(光が10年かかって進む距離)以上に広がる、スイカの皮のような形の天体です。私たちがいる銀河の中に300個ほど見つかっています。見かけの大きさは、直径が満月の4分の1ぐらいから満月16個分まで、さまざまです。

「Tycho(ティコ)」「SN1006」「RXJ1713.7-3946」という三つの超新星残骸について、満月との見かけの大きさを比べてみました。もしX線が見られる眼鏡があれば、見上げた夜空には、大きく広がった丸い雲のような天体が、いくつも浮かんでいることでしょう。

星の中で作られたさまざまな元素は、超新星爆発によって宇宙空間に放出されます。超新星残骸は、放出された元素が宇宙空間に広がる途中の様子を、切り取って見ていることになります。

ティコは約500年間、SN1006は約千年間、元素を宇宙に供給している真っ最中です。将来、どこかの惑星の材料になるかもしれません。

宇宙X線観測は、自分が目で見る宇宙とは全く異なる姿を見せてくれます。これは目に見える世界はほんの一部にすぎないこと、多角的な観点を持つことの面白さを示しています。

大学では、新たなX線天文衛星の開発に参加しています。学生たちはデータをさまざまな観点で解析し、新しい見方と得られた事実に向き合う力をつけていきます。

平賀 純子</span> 教授

Hiraga S. Junko

X線天文衛星による観測データを使って、超新星残骸について研究をしている。また、国際プロジェクトに参加して人工衛星の開発にも貢献しています。