天文台でも、人工衛星でも。
「光の解析」で大活躍!
大学院 理工学研究科 物理学専攻 修士課程2年生
※取材当時
小鹿 哲雅 さん
カメラや望遠鏡の設計・開発には、光の反射や屈折、干渉、回折現象などを解析するシミュレーション技術が欠かせません。私が大学院の研究室で取り組んでいるのは、そうした光学シミュレーションの研究です。しかも対象としているのは「宇宙」に関わる光学装置で、現在は2つのプロジェクトに参加しています。1つは、国立天文台ハワイ観測所に設置されている、口径8.2mという巨大な『すばる望遠鏡』の観測装置開発。もう1つは、10×20×30cmの超小型衛星『VERTECS』に搭載される、宇宙背景放射観測装置の開発。サイズも、使われる環境も、まったく異なる2つの装置と向き合い、苦心を重ねつつも、ワクワクと心躍らせる毎日を過ごしています。

1月に国立天文台ハワイ観測所を訪れた時の小鹿さん。『すばる望遠鏡』のスケール感に驚かされます。「この時は、オーストラリア国立大学(ANU)の方と議論をしました。共同研究や国際学会など、海外の研究者とのコミュニケーションの機会は多いですし、英語能力のさらなる向上も、今後に向けた自分の課題の一つだと実感しています」。
「宇宙の謎の解明」以上に
魅力を感じた「観測装置開発」。
興味のきっかけや踏み出す
チャンスをくれた先生に感謝。
松浦研究室では、宇宙の様々な謎の解明をめざし、国内外の多くの研究機関と協力しながら観測や実験を重ねています。大学1年生の授業で、松浦先生からお話を伺う機会があり、その中で私が最も興味を持ったのは、「宇宙の観測装置開発」に関する内容でした。もともと「ものづくり」への関心が強く、「これから学ぶ物理や宇宙の知識を使って、望遠鏡がつくれたら面白そうだ」と感じました。そこで2年生の時、祖父のフィルムカメラを使って分解実験を行ってみました。松浦研究室からレンズの性能評価ソフトをお借りして、自分でもプログラミングしながら、レンズ一つひとつの光の屈折を計算し、高校時代は情報科学科で学んだので、プログラミングは得意でした。「レンズってこんなにも工夫が凝らされているんだ」といった驚きと発見が得られた実験でした。
そして3年生の時、松浦先生の勧めで国立天文台の『サマーステューデントプログラム』に参加。この時の課題は、『すばる望遠鏡』の解析でした。私は祖父のカメラの実験の際に自作したプログラムを応用してシミュレーションを行いました。その成果が非常に高く評価され、数ヵ月後には天文学会での発表に至ったのです。入学当初は想像もしていなかった経験をすることができました。そして私は4年生から松浦研究室に配属となったのです。
プログラミングや物理学の学び、
プロジェクトでの経験など、
一つひとつの積み重ねが、
評価に繋がっているのがうれしい。
『すばる望遠鏡』では、補償光学装置のシミュレーションに携わっています。ノイズキャンセリングイヤホンと似た考え方で、逆位相の光によって地球の大気の揺らぎを「キャンセル」し、より鮮明な観測を可能にする装置です。一方、超小型衛星では、宇宙空間という環境下での使用や打ち上げ時の衝撃をふまえたうえでの解析が重要です。こうした地上望遠鏡と人工衛星とのテーマの差異を「面白い」と感じつつ、どちらにも「より優れた観測方法の提案に繋げたい」という強いモチベーションを持って臨めているのがうれしいですね。
学会では「光のシミュレーションがしっかりとできている」といった評価をよくいただきます。高校から養ってきたプログラミングスキル、大学で身につけた幅広い物理の知識、祖父のカメラの分解実験、プロジェクトでの経験…。その積み重ねが、活きています。特に光学に関しては、学部生時代は講義だけで満足できず、独学しながら何度も教授に質問に行きました。その都度、丁寧に応えて下さり、実験設備まで使用させていただき先生方には、感謝しかありません。将来も、自分の知識やスキルを通して「ものづくり」に貢献できる人になりたい。まずは博士課程に進み、もうしばらくは松浦研究室で、光学の専門家という側面から宇宙研究を支えつつ、自らの知的好奇心を追究し続けます。