「体内合成型医薬品」で
未来の医療を変える!
大学院 理工学研究科 化学専攻 博士課程1年生
※取材当時
西野 荘大 さん
大学院の研究室で「体内合成型医薬品」の実現に向けた研究に取り組んでいます。「患者さんの体内で、安全な前駆体(化合物が合成される前段階の物質)どうしを反応させ、必要な時に必要な場所で薬を自動的に生成する」という、画期的な技術の開発をめざしています。服用の手間も副作用の危険性もほとんどなくなり、ここから個別化医療や難治性疾患に向けた新たな治療法を切り拓くことも期待できます。私の専門は有機化学ですが、この研究はそういった枠を超えた、生命科学・医療工学・ナノテクノロジーの融合によるイノベーションであり、未来の医療のあり方を根底から変えるポテンシャルを秘めていると確信しています。その成果が認められ、日本全国から将来有望な若手化学研究者が集まる「大津会議」に選出されました。トップレベルの研究者や同世代の若手研究者と一緒に、研究や将来の展望について議論しました。
「体内合成型医薬品」の実現に向けたこの研究は、西野さんにとって、まさに「科学を通じて未来をつくる」実感を与えてくれる、かけがえのない挑戦。「実験室で生まれた小さな発見が、未来の医療や社会のあり方を変えるかもしれない。そんな希望を抱いて研究を続けられるのが、研究者としてこのうえないやりがいです!」。
学術的発見だけでなく、
社会への貢献が実感できる研究へ。
学会でも「概念自体が新しい」と
評価され、大きな自信に。
有機合成といったミクロな世界の営みが、社会というマクロな存在に影響を与えうる。そこに魅力を感じて私は有機化学の道を選び、倉橋先生の研究室を志望。研究室に配属後は、有機合成反応の開発などの基礎研究に打ち込みました。そうした研究も非常に興味深く、知的好奇心を刺激されるものでしたが、次第に「社会や暮らしに、より直接的な還元ができる研究がしたい」と考えるようになり、修士2年の時にたどり着いたのが現在の研究テーマです。
有機化学と生体分子の相互作用を統合することで、従来の薬剤開発の常識を根本から覆す「体内合成型医薬品」。最初は「本当にできるのか?」と自分でも不安でした。現実味を帯び始めたのは、私が新たに開発した反応が、有機溶媒だけでなく水中でも効率よく進行する、と発見できた瞬間です。「これなら体内でも成立する!」「すごい発見だよ!」と倉橋先生も喜んでくれ、実際の医療への応用など、その社会的意義についても一緒に語り合ってくださったのが、とてもうれしかったです。そこから研究は大きく前進して、4報の論文を学術誌に投稿し、学会で口頭発表も実施。「概念自体が新しく、非常に興味深い」といったコメントが寄せられ、大きな自信になりました。民間企業からも研究助成金の採択を受け、自身の研究が本当に社会的意義を持ち始めたのだと、実感しています。
主体的に提起したテーマを掘り下げ、
誰も見たことのない
新しい知見を切り拓いて、
社会へと還元できる研究者に。
研究はずっと順調だったわけではありません。思った通りに反応が進行しないといった壁に、何度も直面しました。そんな時に支えとなったのが、周囲との対話です。定期研究報告会で倉橋先生や研究室の仲間からの助言をもらったり、時には他の研究室の先生方にも多角的な視点からのアドバイスをお願いしたり。関学にはいろいろなバックグラウンドを持つ教員が集まり、自由に議論できる風土があります。この環境が、困難を乗り越える大きな力となりました。
今後も質の高い論文を継続的に発表し、自分の存在や取り組みを学術的に認めてもらい、博士課程終了後の研究者としてのキャリアを確立させたいですね。企業の研究職にも意義を感じますが、私は大学教員を志望しています。主体的な研究の成果を学術的に発言できる大学という環境で、自分の興味を掘り下げ、誰も見たことのない新しい知見を切り拓く、このうえない自由と責任を伴う仕事に、強い魅力を感じてのことです。そして何より「いつも自分のこと以上に私たちのことを考え、支えてくれる、倉橋先生のようになりたい」というのが、正直な気持ち。先生に報いる意味でも、「他者への貢献」という研究者としての倫理と責任の実践を常に意識し、研究成果を社会へと還元していけるよう、成長し続けたいと思います。