陶 若涵さん

細菌の光合成をヒントに、
エネルギー問題の解決へ。

大学院 理工学研究科 環境・応用化学専攻 博士課程2年生
※取材当時

陶 若涵 さん

植物が行う光合成は、まだまだ謎がいっぱいです。私たちの研究室では、そうした光合成の機能の解明に挑戦。なかでも私は、光合成を行う細菌が、必要以上に強すぎる光を受けた時に、自分の体を守る機構について研究しています。特にカロテノイドという色素分子が、光のエネルギーを安全に逃がすはたらきに着目。レーザーを使った測定と量子化学計算によるシミュレーションで、細胞内でどんなエネルギーの動きが起きているのか、分子レベルでの解明を進めています。このような自然界のしくみを知り、次世代のエネルギー創出のヒントにしようというのが、研究の大きな目的。具体的には、高効率で安定性の高い人工光合成システムや太陽電池への応用が期待されます。

最初は透明に近かった培養液が、細菌が育つとともに緑や赤などの色にだんだんと深まっていくのを、陶さんは面白く感じています。「一方で、目に見えないミクロな世界の現象を“見える化”できるのも研究の魅力。ごくわずかな信号を捉えられた瞬間は、一つのツールを通して別の世界に入り、分子と対話している感覚になれます」。

量子化学計算で研究に貢献、
自分の手で実験を行い、
研究を通して得られる充実感は格別。

修士の時には、研究室で連携して研究を行っており、私は量子化学計算を使い分子レベルでシミュレーションに専念していました。研究室の仲間たちがそれぞれ自分の研究における実験を行う際、そのシミュレーションをして比較データとして提供する、といった形でのサポート役を担っていたのです。ラマン分光や分子構造の変化をPCの画面上で確かめられるのが楽しく、また、自分が携わった先輩の研究成果が学会で評価された時はとてもやりがいを感じました。シミュレーションする中で、「この画面の中の物質を、自分で育てて、手で触れて、測定したら、どう感じるのかな?」と思うようになっていきました。そして、こんなに素晴らしい研究を間近にしているのだから、計算だけでなく、実験の過程からデータ解析まで、自分の手で一貫して行わなくてはと考えたのです。特に、実験で得られた信号が計算結果と重なった時の「納得感」や「手応え」は画面を見るだけでは得られないもので、それを自らの「体験」として感じたい。博士に進んでからは「自分の研究テーマ」を持ち、実験と計算の両方に挑戦しています。
研究は、無数の小さな実験の積み重ねで成り立っています。思うように進まない時もありますが、それでも今は、自分の研究テーマに、自分の手で一貫して取り組んでいるという実感のなかで、自分の論文を発表するという目標に向かって頑張れているのが、とてもうれしいです。

日本人の価値観を学び、成長したいと考えて、
中国から留学。
結果を急がず、プロセスの意味を
重視できる自分に変われた。

中国で生まれ育った私は、日本人に対してすごく真面目な印象を持ち、そんな日本人と一緒に学ぶことが自分の成長に繋がるかもと考え、日本に留学しました。日本で好きな化学が学べ、尊敬できる橋本先生の研究室にも入れたのは、とてもうれしかったです。それでも実験の失敗が何週間も続いた時は、苦しくなって「もうやめたい」とすら考えました。そんな私に親身になり、実験の組み直し方やポイントを一つひとつ丁寧に確認してくださったのが、橋本先生です。
日本で努力を重ねる日々のなかで心の支えとなったのが、橋本先生の「簡単じゃないからこそ、やる意味があるんだよ」という教えでした。以前の私は、結果が出ないとすぐイライラしたり、不安になったりしました。でも、今は「粘り強さ」や「待つ力」が身についたと感じます。実験にも時間をかけて丁寧に向き合い、結果以上に「そのプロセスからどんな知見や成長が得られるか」を考えられるようになりました。海外との共同研究の機会も多い研究室ですし、国際コミュニケーション能力の向上や、より高度な技術の習得など、さらに成長を重ね、社会にとって意義のある成果を生み出していきたいと思います。

PROFILE

陶 若涵さん

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大学院 理工学研究科 環境・応用化学専攻 博士課程2年生
※取材当時

陶 若涵
(とうじゃくはん|Tao Ruohan)

中国・蘇州市生まれ。化学系の製造業を営む父親のもとで、幼い頃より化学を身近に感じながら育ってきたなかで、「自分も化学について深く学び、その知識を社会のために役立てたい」と考えるように。また、日本の文化や日本人の価値観について興味深く感じていたことから、日本への留学を希望。母国の高校を卒業後、日本に渡り、日本語学校を経て、2018年4月に関西学院大学理工学部環境・応用化学科に入学。志望理由は「化学の知識を、エネルギー変換や環境問題など、実際の生活に役立てるための学習や研究ができる」「学部生から実験の機会が多く、有機・無機・分析・物理など幅広い分野の化学が学べるのがいい」「こんなにきれいなキャンパスで学べたらうれしい」などと感じたから。入学後は基礎から化学の知識を幅広く学び、大学4年生からは橋本秀樹教授の『バイオ物質科学研究室』に所属。2022年4月から関西学院大学大学院理工学研究科環境・応用化学専攻修士課程に、2024年4月からは博士課程に進学し、同研究室で光合成初期反応の機能解明に取り組んでいる。修士2年の時には、富山国際会議場で開催された『第19回国際カロテノイド学会(19th International Symposium on Carotenoids)』に参加。同じ研究室の先輩の発表に、量子化学計算でのサポートに携わった共同研究者として名を連ねるとともに、自身もポスター発表を行う。博士1年には、2024年度仁田記念賞を受賞。現在は「紅色光合成細菌 Blastochloris viridisのLH1-RC 複合体におけるカロテノイドの光保護機能」を研究テーマとし、論文の執筆や学会発表に向けた準備を進めている。趣味は自然散策や山登り。三田周辺の豊かな自然の中を歩いたり、時には富山や長野まで足を伸ばして本格的な登山を楽しんだり。また、身体を動かすことだけでなく、黙々と集中することも好きで、家でジグソーパズルに夢中になるなど、休日にはその時々の気分に合わせた楽しみ方で、研究に没頭する日々からの気分転換を図っている。

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