副作用のない治療をめざし、
がん発症メカニズムを追究。
大学院 理工学研究科 生命医化学専攻 博士課程1年生
※取材当時
白澤 真白 さん
放射線や抗がん剤による現在のがん治療法は、がん細胞だけでなく正常な細胞も傷つけてしまうため、その副作用で多くの患者さんが苦しまれています。この問題の解決に向け、私たちの研究室ではがん発症メカニズムの研究を進め、そのなかで「細胞増殖を制御しているE2Fという因子が、がん細胞においてのみ特異的にがん抑制遺伝子を活性化する」ことを見出しました。これを利用して、がん細胞と正常な細胞を見分け、がん細胞だけを攻撃する「副作用のない治療法」の確立に繋げる、というのが、私たちがめざすゴールです。私自身は「WDR1という因子ががん化を抑制するはたらきをしているのでは?」という点に着目し、独自の研究を推進。学会発表でも多くの反響をいただき、確かな手応えを感じています。
『第97回 日本生化学会大会(2024年11月・パシフィコ横浜ノース)』で口頭発表を行う白澤さん。「自分の研究成果に、たくさんの方々が関心を抱いてくださったのがうれしかったです。今後もより多くの人たちに研究成果を広め、がん治療法の進化へと繋げていくため、国際学会での発表にも挑戦していきたいと考えています」。
「実験は丁寧に」「原理が大切」
という先生の教えが
私が研究活動に取り組むうえでの
揺るぎない指針に。
「がんで苦しむすべての人の助けになる研究をしている」という大谷先生のお言葉に感銘を受け、入学当初からずっと大谷研究室に入ることを目標に頑張ってきました。そして大学3年生の時に仮配属となり、その頃から先輩たちの研究データなどを見て、私が一番興味を持ったのがWDR1でした。「本来は細胞質で細胞遊走に関わるこの因子が、なぜ核内に存在し、E2Fと一緒に何をしているんだろう?」といった驚きや疑問から、私はこのWDR1を研究対象とし、博士1年の現在もずっと向き合い続けています。その結果、細胞質で細胞骨格の制御に関わることしか明らかにされていなかったWDR1が、核内でがん化抑制に働くE2Fという転写因子を活性化し、がん化抑制に関与することを始めて見出しました。
最初の頃は、実験で思うような結果が出ないことが多かったです。一つずつ条件を変え、基本をしっかりと守りながら丁寧に原因を検討することで、その苦難を乗り越えていけたと思います。大谷先生には、学部生時代の実習の時から「実験は丁寧にやること」と教わりました。細胞は繊細ですし、丁寧に進めなければ再現性が取れる実験にはなりません。そして先生は「原理に基づいて考えることが大切」と、いつも言われます。最初に実験の進め方を教わった時も原理から教えてくれ、つまずいた時にくれるアドバイスも「まず原理」。そうした先生の教えを常に心がけて研究に打ち込んできたことが、今の成果に繋がっていると感じています。
研究成果を世界へ。
将来は教員として
理科の魅力を伝えたい。
学会での初めての口頭発表は、これまでのポスター発表とは違い、厳正な事前審査を経ての登壇でした。その審査をクリアできたことで、「私の研究成果が認めてもらえた」ということを実感し、研究者としての自信にもつながる貴重な経験となりました。
会場でも多くの方が聴いてくださり、たくさんの質問もいただいて…。自分の研究に興味を持っていただく機会を得られたのが、何よりうれしかったです。
現在は「WDR1の研究成果を論文にして世界に発表したい」という気持ちが大きいです。学会発表も大切ですが、やはり成果は論文にして、世界のより多くの人たちに知ってもらわなくてはなりません。そして私の研究成果に興味を持ってくれた人が、さらに研究を進めることで、より優れたがん治療法への応用が実現すれば、最高です。
こうして研究に情熱を注ぐようになった原点は、高校時代にあります。生物の授業で先生が「運命の赤い糸と言われる遺伝子があるんだよ」と話してくださったことが、とても印象に残っていて、「理科って面白い!」と心から思いました。その経験がきっかけとなり、私もいつか、生徒たちが理科が好きになるきっかけを作れる教員になりたいと考えるようになりました。学部生時代には教職課程を履修しています。
最終的な夢は教員ですが、今は研究者としての好奇心はまだまだ尽きませんし、研究を続けたいという思いが強くあります。