バイオ燃料も、温暖化抑制も。
海洋微生物の力で地球を救う。
大学院 理工学研究科 生命科学専攻 博士課程1年生
※取材当時
天野 桃花 さん
私が研究対象としているのは、海中に生きる「珪藻」という微生物。光合成を行う植物プランクトンで、実は地球上の光合成の約20%をこの珪藻が担っているんです。光合成にはCO₂が必要ですから、地球温暖化抑制に繋がるCO₂固定において、珪藻が果たしている役割は非常に大きいと言えます。さらにそのうえ、珪藻には、光合成の産物として多くの油を作って貯め込むという性質もあり、この油が次世代のバイオ燃料として注目を集めているんです。私はこうした珪藻の光合成について、「環境によってどう変化する?」「環境への柔軟な適応ができるのはなぜ?」といったメカニズムを研究。化石燃料の枯渇と温暖化、二つの問題の解決への糸口を、珪藻から探っています。
CO₂や窒素の濃度など、条件が異なるさまざまな海の環境を実験室のなかに擬似的に作り上げ、それぞれの環境下での珪藻の光合成について測定。「思い通りの数値が出なかった時は、どの条件が悪かったのかを一つひとつ確かめるのが大変です。今はもうだいぶ確立できていますが、最初の頃は試行錯誤を繰り返すばかりでした」。
中学生の時に
「光合成をする微生物」の可能性に感動。
海外でもその独自性が
高く評価されている松田研究室へ。
中学生の時、社会科の授業で新聞記事についてスピーチを行う機会があり、その時にたまたま見つけた「屋外でのミドリムシの大量培養に成功」といった記事に惹かれたのが、生物学の道に進もうと考えたきっかけです。「光合成ができる微生物には、社会の問題解決に結びつくような、たくさんの応用の可能性が秘められているんだ」とワクワクして、その気持ちが今の研究にも繋がっています。
松田先生の研究室を選んだ理由はいろいろありますが、やっぱりここでしかできない独自性の高い研究ができる点が大きいですね。珪藻は陸上植物とはまったく違う特殊な葉緑体を持っていて、CO₂濃度が低い海中でも重炭酸イオンから光合成に必要なCO₂を固定できます。「CO₂濃縮機構(CCM)」と呼ばれるこの仕組みの解明には、松田研究室による功績が非常に大きく、なので「ここにしかない知見」がたくさんあるんです。その知見が求められ、珪藻の研究が比較的盛んな欧米との共同研究の機会も多くなっています。私も近々、共同研究先のパリ高等師範学校のラボを訪れる予定です。海外では日本と異なる視点での研究もあり、また同じ世代の若者としても、考え方の違いが実感できるため、新しい気づきや視野の広がりを得られるのが、こうした共同研究の魅力だと感じています。
自分が心から
「楽しい」と感じる研究に打ち込むことが
学会での評価や
社会への貢献にも繋がってゆく。
学会発表では賞をいただくという貴重な経験ができ、学部生時代の研究成果をまとめた論文では、学会で論文賞を受賞しました。現在も論文を執筆中で、「得られた成果はできるだけ早く論文として発表したい」と考えています。私たちのアイデアは、世界のどこかで同じようなことを考えている人がいるかもしれませんが、それだけ注目されるテーマであるということでもあります。だからこそ、誰よりも早く形にして発信することに意義があると感じています。こうした研究活動の中で、本年1月には学会発表や論文などによって優れた研究成果が認められた大学院生に授与される仁田記念賞を受賞するという大変光栄な機会にも恵まれました。今まで私がずっと積み上げてきたことを、認めてもらえたように感じました。この賞は、一人でもらったということではなくて、いつも支えてくださっている松田先生や研究室のみなさんには、感謝の気持ちでいっぱいです。
大学に入った頃は、まさか博士課程まで進むとは思いませんでした。松田先生に「修士で終わるのはもったいない、天野さんならできるよ」と背中を押してもらえたことが自信になりました。そして何より「自分が今何を一番楽しんでいて、この先、何に心惹かれるか?」を突き詰めて考えると、他に答えはなかったと思います。
今の目標は、栄養飢餓下での珪藻のCCM制御のメカニズム解明。在学中にある程度のところまではやり遂げたいですね。その後のことは、まだ考えていません。卒業が近くなってきたら、また自分の心に問いかけようと思います。