人工光合成の実用化の
鍵となる研究に挑戦。
大学院 理工学研究科 環境・応用化学専攻 修士課程1年生
※取材当時
長田 陸 さん
人工光合成とは、植物の光合成を模した手法により、太陽光エネルギーを使って水と二酸化炭素から水素やメタノールなどの燃料をつくる技術です。私が所属する橋本秀樹先生の「バイオ物質科学研究室」では、次世代のクリーンなエネルギー源として注目が集まる、この人工光合成をテーマとした研究を進めています。なかでも私の研究対象は、光合成色素であるカロテノイドの一種「アスタキサンチン」。エビの殻などに含まれる色素物質です。私はこのアスタキサンチンの有用性を人工光合成以外の分野でも高める研究によって、「アスタキサンチンの大量生産→人工光合成用途でのコストダウンと安定供給→人工光合成の実用化へ」といった潮流を生み出そうとしています。
実験では思っている結果がなかなか得られないといったことも多いですが、一人で抱え込まず、先生に相談することも重要だと長田さんは考えます。「以前には、橋本先生と一緒に失敗の原因を追究するなかで、それまで気づいていなかったアスタキサンチンの性質が判明する、という大きな収穫が得られたこともありましたからね」
化粧品やサプリメントにも活用されている
アスタキサンチン。
その有用性を高めることが、
次世代エネルギー普及への糸口に。
アスタキサンチンはエビ類のほか、鮭やカニ、イクラなどに多く含まれる、赤い色素物質です。抗酸化作用が強く、疲労回復や老化防止に役立つといわれ、化粧品やサプリメントに多く用いられています。ただアスタキサンチンは、通常の状態では生体への吸収率が高くありません。化粧品やサプリメントに使うなら、触媒などで吸収率が高い形に変える必要があります。私の研究では、この吸収率が高い形に変えたアスタキサンチンを、安定的に供給できる技術の確立をめざしています。これが実現すれば、化粧品やサプリメントにアスタキサンチンが大量生産されるようになり、人工光合成のコストダウンや実用化に寄与できるというわけです。
もちろんそのためには、生体への吸収率が高いだけでなく、人工光合成も高効率に行えるアスタキサンチンであることが必須条件です。吸収率の高いことが期待されるアスタキサンチンの候補は256種あるので、どれが実用的でかつ大量に作り出せ、人工光合成の効率を上げるのか、その特定に向けた検討や実験をずっと繰り返してきました。9月には学会発表も行いましたが、今後も研究を深めるとともに国内外の学会に精力的に参加し、アスタキサンチンと人工光合成の可能性を世の中に発信していきたいと思います。
研究室の先輩たち、
海外の研究者の方々、さまざまな人たちとの
積極的なコミュニケーションを通して
成長を重ね、夢に近づきたい。
子どもの頃、家族と競馬中継を見て、サラブレッドの美しさに感銘を受けました。いつしか「将来は競走馬に関連する研究がしたい」と考えるほど競走馬への関心が高まり、たどり着いたのがこの研究室。橋本先生から「JRA(日本中央競馬会)では競走馬にアスタキサンチンの入ったエサを与えている」と聞き、そこから人工光合成にも興味を持つようになったのです。
ただ研究室配属当初は、人工光合成についての知識はまったくと言っていいほどありませんでした。そこで「研究論文を読むことから始めよう」と考えたのですが、ほとんどが英語で書かれたものですごく難しくて…。それでも先輩の修士論文を参考にしたり、先輩たちに直接いろいろと教わったりするなかで少しずつ内容がわかるようになり、自分が取り組む研究分野への理解を深めていくことができました。
4年生の夏には、国際学会に運営スタッフとして参加。たくさんの海外の研究者の方々と接して、自らの成長を実感できる機会になりました。今後もいろいろな方々と積極的なコミュニケーションを図りながら知見を深めて成長し、「いずれは競走馬に関わる研究を」という夢にも近づいていきたいですね。