聴講者の反応がわかる
オンライン会議システムを
構築。
大学院 理工学研究科 人間システム工学専攻 修士課程2年生
※取材当時
柴谷 俊成 さん
オンラインでの講義や発表では、聴講者はカメラをオフにして参加するケースが一般的です。しかし発表者にとっては、聴講者の顔が見えないため、「本当に聴いてもらえているのだろうか?」といった不安が生じてしまいます。そこで僕は、大学院の研究室で、この問題を解決するための新しいオンライン会議システムについて研究。その結果、聴講者一人ひとりの視線を追跡することで「資料の適切な部分を注視している」「相槌をうっている」といった聴講者たちのリアクション情報が、顔を見せなくても発表者に伝わる、これまでにないオンライン会議システムを新たに構築しました。学会で発表し、賞までいただくことができて、大きな手応えを感じています。
視線の追跡には「WebGazer.js」というオープンソースのフリーウェアを活用。聴講者全員のカメラから計測した視線データをもとに、視線が集まっている箇所は明るく、少ない箇所は暗くすることで、聴講者の反応が直感的にわかるように。また聴講者の画面に設置したリアクションボタンにより、理解度や評価もグラフ表示されます。
自身の体験から
「こんなシステムがあれば」と感じ、
研究に着手。
周囲の評価から
「みんなが欲しいと思うものが作れている」
と実感。
学部生の頃、コロナ禍のオンライン授業について、先生から「学生は顔出ししていないので、反応がよくわからない」といった声を何度か聞きました。当時はあまり気に留めていなかったのですが、4年生になって自分がオンラインで研究発表をする機会が増えると、そのたびに「僕の声はみんなに届いているんだろうか?」と不安になり、それでようやく先生の言葉の意味が実感できました。とはいえ、聴く側が顔出しに抵抗を感じるのも、自分がオンライン授業を受けていた時の感覚から、十分に理解できます。「いい解決法はないかな?」。そう考えたのが、この研究の出発点です。
実は、同じようなことを可能にするシステムは従来もいくつかあったのですが、それらは専用のハードウェアが必要で、コストや手軽さの面で課題がありました。僕は「PC1台あれば誰もが簡単に利用できるものにしたい」と考え、標準的なWebカメラで聴講者一人ひとりの注視点を計測し、「画面上のどこに視線が集まっているか」が発表者に一目でわかるしくみを考案。学会で高い評価を受けただけでなく、就活の面接でも「うちの会社でもそのシステムを使ってみたい」といったお言葉がいただけ、「社会に求められる研究ができているのかな」と感じ、研究へのモチベーションがさらに高まっています。
学生の想いを尊重してくれる先生。
ユニークな意見をくれる仲間。
みんながいたから、
この異質で前例のない研究テーマに
打ち込めた。
いま所属している井村誠孝先生の『バーチャルリアリティ学研究室』との出会いは、高校生の時でした。ゴーグルを装着しながらVRコンテンツの開発に取り組む様子を研究室のサイトで見て、「大学だとこんな面白そうな勉強ができるんだ!」と驚き、これがきっかけで関学の人間システム工学科に入学。4年生からこの研究室に入り、最初は僕もVR関連の研究をしていました。今の研究テーマに取り組み始めたのは、大学院進学の頃です。この研究室ではかなり異質なテーマでしたが、井村先生に相談すると「それ、いいね。やってみよう」と、すぐ賛成してくださって。ただ、研究室としても前例のないテーマで、こうしたシステムに詳しい人もいなかったため、わからないことだらけでずっと苦労の連続でした。それでもこの研究室には、力学や医療などそれぞれ多様な専門知識を持つ先輩や仲間がいるので、他の情報系の研究室では得られない、いろいろな角度からのアイデアやアドバイスがもらえたのは有り難かったです。
学会発表は実現しましたが、今はまだ基礎ができた段階。卒業までには、僕がいなくても誰もが当たり前に使えるようなシステムへと、完成度を高めたいですね。そしてその後は、この研究を後輩に引き継いでもらい、研究発表や企業でのプレゼンなど、社会のさまざまなシーンで活用されるシステムとして広まるくらいなれば、最高です。