ノーベル賞研究の
さらなる進化に挑む。
大学院 理工学研究科 化学専攻 修士課程1年生
※取材当時
小田垣 柊人 さん
野依良治博士は、有害な分子を発生させずに有機化合物を合成する手法を確立し、2001年にノーベル化学賞を受賞しました。そしてこの化学合成を金属が入っていない触媒で行うという、より安全でローコスト、環境にも優しい合成法を実現し、2021年に同じくノーベル化学賞を受賞したのがデイヴィッド・マクミラン博士です。この二人の偉大な有機化学者の研究をさらに進化させ、これまで以上に環境に優しく、暮らしを豊かにできる、新しい化合物合成法を開発すること。それが、私の研究テーマです。新しいアプローチによる研究のため、道のりは平坦ではありませんが「いつの日か、自分が開発した手法で世界を変えるような化合物を生み出したい」と意気込んでいます。
他の研究室と比べ、普段は扱う機会がないような測定機器類が多く、そうした機器に触れてみたいという好奇心が掻き立てられたことも、小田垣さんが現在の研究室への所属を希望した理由の一つ。「それでも研究活動をスタートしたばかりの時は、これまでにない新しいテーマだったため実験装置がなく、装置の自作から着手しました」
プラズマを用いた有機合成手法の開発
という「未知への挑戦」。
多くの失敗と向き合い続けるなかで、
自らの成長も実感。
マクミラン博士は、熱や光によって活性化状態をつくるという手法で、毒性のある金属触媒を用いる必要のない有機合成を実現しました。私はこの活性化にプラズマを用いるという考え方で、新しい有機合成手法の開発をめざしています。プラズマのような高エネルギー種によって、光や熱では生じないような高い反応性を持つ活性種を発生させることで、有機合成の可能性が広がるのではないか、というのが私の考えです。
研究活動では、思うような結果が得られないことも多いですが、「未知への挑戦なのだから、うまくいかなくて当然」「予想外の結果は、むしろ未知の問題を解決するチャンス」と考えることで、落ち込まず、前を向き続けてこられたと思います。「何が問題なのか?」「どうすれば解決できるか?」を自分で調べて考え、自分なりの答えを見つけたうえで、先輩や先生に相談して…。その積み重ねが、私自身の「考える力」を飛躍的に伸ばしてくれたと感じます。失敗が多いだけに、たとえ小さな成果であっても、良い結果が出た時の喜びはひとしおです。今も失敗と成功を繰り返す毎日ですが、失敗のエピソードをネタにして友だちと談笑することで、楽しく研究に打ち込めています。
世界を変えるような研究。
刺激を与えてくれる先生や先輩たち。
この環境に身をおくことで
「なりたい自分」にも近づいてゆける。
有機化学は、医薬品やプラスチック、繊維など、日常生活に欠かせないものを構成する物質について学ぶ領域です。私が所属している倉橋拓也先生の「先端有機合成反応化学研究室」では、そうした物質をつくるための有機合成反応の開発に取り組んでいます。新しい合成法の開発が実現すれば、これまで世の中になかった、世界を変えるような材料や医薬品だって生み出せるかもしれません。そんな先進的・革新的な研究テーマに満ちたこの研究室に魅力を感じ、私は配属を希望しました。そして何より、研究を心から楽しんでいる先輩たちの姿を見て「自分も、ここでなら」と思えたことが大きかったです。
研究室配属当初、倉橋先生は私に目標設定シート「マンダラチャート」の作成を促してくれました。そしてチャート作成を通して、私は自らの目標を明確にすることができました。「何を問われても適切な回答や解決策を提示できる、豊富な知識を持った機転の利く人間になる」と。この目標を達成するには、成功だけでなく失敗も含め、多くの経験を積む必要がある。だからこそ、研究活動を通して人一倍の挑戦をしていきたい。そしてその挑戦を、世界を変えるような成果へと繋げたいですね。