久保 直輝さん

量子ドットの
新たな特性を追究し、
エネルギー問題の
解決に繋げる。

大学院 理工学研究科 環境・応用化学専攻 博士課程 3年生
※取材当時

久保 直輝 さん

2023年のノーベル化学賞で、世界的に「量子ドット」への注目が高まりました。大きさが10ナノメートルに満たない「ナノ物質」には通常の物質にはない特異な性質があり、なかでも半導体材料をナノサイズにした量子ドットは、大きさによって様々な色で発光するといった特性や、光を吸収して効率よくエネルギーに変換するといった特性を持ち、LEDや太陽電池など多くの分野で活用されています。私はこの量子ドットの並べ方、集合構造を変えることで、その特性がどう変わるかについて研究。これまでに発見されていない量子ドットの新たな可能性を探ることで、より高性能な太陽電池やLEDの開発などに繋げ、エネルギー問題や環境問題の解決に貢献したいと考えています。

量子ドットのなかでも、久保さんが研究対象としている「ペロブスカイトナノ結晶」は、サイズや組成を変えることで青から赤まで幅広い領域で発光色を変えられるのが大きな特徴。こうした発光色の変化やエネルギー伝搬の特性を自在に制御する手法を確立し、LEDや太陽電池などへのより有効な活用を図ることが研究の大きな目的です。

高校生の頃の「興味」をきっかけに、
大学での幅広い学びを経て、
自分が本当に取り組みたかった、
今の価値ある研究にたどり着いた。

高校生の頃、「蚊が血を吸うメカニズムをもとに作られた痛くない注射針」といったバイオミメティクス(生物模倣)に興味を持ちました。「自然界にあるものを人工的に応用できるんだ!」と面白く感じ、そうした勉強ができる進学先として選んだのが関学の環境・応用化学科です。なかでも植物の光合成を再現してクリーンなエネルギーを生み出す「人工光合成」については、環境問題への関心が強かったこともあって「ぜひ学んでみたい」と考えていました。
そして入学後、人工光合成を学ぶうえでの基礎となる知識を幅広く身につけていくなかで、私は「光」そのものに目を向けるようになりました。特に実験の授業を通して「発光スペクトルだけで、物質のなかの目に見えないメカニズムを予想することもできるのか」と感銘を受けたことが大きなきっかけとなり、この授業を担当されていた増尾先生の研究室で「光に関わる研究に携わりたい」と考えるようになったのです。光への関心から選んだ研究室でしたが、もともと私自身が強く意識していた環境問題にも深く関わる研究ができるのもうれしい。基礎的な研究を進めるなかで「こういう仕組みがあったから、こんな社会課題の解決に生かせるんだ」といった繋がりが見えた時、研究の面白さを実感します。

検証を重ね、仮説を立証できた時の
喜びが一番のモチベーション。
製品化という目標に向け、
卒業後もこの研究に携わり続けたい。

学部時代の実験の授業で感じた「発光スペクトル一つからいろいろなことが予想できる」といったことへのワクワクするような気持ちは、今の研究活動でも変わりません。そうした自分の予想に対して、様々な角度から証拠を集め、「やはり確かなものだった」と仮説が立証された時が何より楽しい。一つずつ条件を変えて検証を重ねるといった地道な作業は本当に大変ですが、「これでこの結果が出るなら、今度はこうすればこんな可能性があるのでは?」とパズルを解いていくような感覚で、最後にそれがハマった時が最高にうれしいんです。
博士課程に進んだ頃から賞もたくさんいただき、なかでもICP2023では、初めて自分の力だけで研究成果を形にして、しかも国際学会という大きな場で英語で発表し、それを認めてもらえたことが大きな自信になりました。日本学術振興会の特別研究員にも採用いただき、国から予算をいただいての研究活動に「その分の結果は出さなければ」といった使命感を抱きつつ、「自分の研究にはそれだけの意義があるんだ」という誇りも感じています。だからこそ基礎研究にとどまらず、例えば卒業後は太陽電池メーカーの開発部門など、製品化という過程を実現できる環境へと進んでいきたい。生涯かけて打ち込む価値がある研究だと、確信しています。

PROFILE

久保 直輝さん

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大学院 理工学研究科 環境・応用化学専攻 博士課程 3年生
※取材当時

久保 直輝
(くぼ なおき)

関西学院高等部出身。高等部での学びを通して、人工光合成やバイオミメティクス(生物模倣)といった、自然の生物が持つ機能を活用する技術に興味を持つ。また、こうした技術がエネルギー問題や環境問題の解決にも繋がるという点に魅力を感じ、「環境のことと、化学のことを同時に学べる」という理由で関西学院大学理工学部の環境・応用化学科に進学。入学後は学科の授業を通して化学やほか関連する分野について基礎から幅広く学び、そのなかでも特に分光学に強い関心を抱くように。4年生からは増尾貞弘教授の「ナノ材料光科学研究室」に所属。以降、太陽電池材料やLEDなどの発光材料として用いられる「ペロブスカイトナノ結晶」の研究に取り組み続け、2020年からは大学院修士課程、2022年からは博士課程に。関西学院大学「仁田記念賞」(2021年度)を受賞。また、「35th International Microprocesses and Nanotechnology Conference (MNC2022)」で「Young Author's Award」を、「The 31st International Conference on Photochemistry(ICP2023)」でポスター賞、「2023年光化学討論会」で優秀学生発表賞(ポスター)、「応用物理学会関西支部2023年度第2回講演会」でポスター賞(最優秀賞)、応用物理学会関西支部の「第12回(2023年度)関西奨励賞」、「日本化学会第104春季年会」で学生講演賞、「第45回光化学若手の会」で優秀口頭発表賞および「BCSJ Award」をそれぞれ受賞。日本学術振興会特別研究員DC1に採用(令和4年度より3年間)。趣味はテニスで、中高を通してテニス部に所属し、学部時代もテニスサークルに所属。研究室に入ってからも先輩や後輩とテニスコートでボールを打ち合うことが多く、研究活動の息抜きの機会となっている。また小学生の頃から書道に取り組んでおり、現在も毎週土曜に同じ書道教室に通い続け、書に集中する時間を持つことで精神のリセットを図り、落ち着きを保つことができているそう。

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