中島 梨夏さん

副作用で苦しむことのない
新しいがん治療法の開発へ。

大学院 理工学研究科 生命医化学専攻 博士課程 1年生
※取材当時

中島 梨夏 さん

がんは日本人の死因の第一位を占める疾患です。現在の放射線や抗がん剤療法は患者さんにとって苦しい副作用を伴うため、それが根本的治療の妨げとなっています。この問題を解決しようと、私たちの研究室では副作用を抑えた新しい抗がん療法の開発に向けた基礎研究を推進しています。現在の治療法では、がん細胞に作用しつつ同時に正常な細胞にもダメージを与えてしまい、それが副作用の原因となっています。そこで私たちは「がん細胞だけにアプローチすることが重要」と考え、これを可能にするための研究を進めてきました。私自身は学部4年生から博士課程1年の現在までこの研究に打ち込み続け、論文や学会発表といった形で成果を出し、着実な手応えを感じています。

研究活動は地道な努力の積み重ね。「まず自分が思うようにやってみて、うまくいかなかった時は、その原因になり得る条件を一つだけ変えてみて、というのを繰り返して一つずつ条件を潰していき、一つクリアしたらその次の段階へ、と、また一つずつアプローチしていきます」。この一つ一つが、大きな成果へと繋がっていくのです。

すべてのがんに適用できる、
とても意義のある研究。
学会での反響の大きさからも、
確かな手応えが得られた。

子どもの頃から医療や薬に興味がありました。「人間の病気を治せるなんて、薬の力ってすごい!」と感じて。そして、ヒトの疾患の原因解明や治療薬開発に向けた基礎研究ができる、関学の生命医化学科へ。特に、身近な病気であるがんの研究に興味があったため、現在も所属している大谷先生の「発がん分子機構学研究室」には入学前から魅力を感じていました。その大谷先生には学部生時代からずっと親身にご指導いただけ、本当に感謝しています。仮配属だった3年生の時も、自分がやりたい実験を自由にやらせてもらえて…。そのうえで、目先の知識だけでなく、原理などの根本から丁寧に教えてくださるので、常に深い理解をもって研究を進めてこられたと感じます。
今の研究の一番の魅力は「すべてのがんに適用できる」ことですね。肺がん、乳がん、肝臓がんなど、がんの研究は組織別に行われているケースが多いのですが、私たちの研究はすべてのがんに共通する発症メカニズムに基づいたもの。がん治療での副作用で苦しむすべての患者さんの助けになると考えると、やりがいを感じます。新しい実験手法を確立させて学会で発表した時は、他の研究者の方々から「これはどういう原理で?」「これが実現できたのは大きいですね」と多くのフィードバックをいただき、自分たちの研究成果の意義を実感できたのがすごくうれしかったです。

お世話になった人たちへの感謝、
患者さんへの想い、
そして研究そのものが
「楽しい」という気持ちがあるから。

学部生の頃から、両親に経済的な負担をかけたくなくて、大学の奨学金制度とアルバイトで学費や生活費を補っていました。そして大学院進学を控えていた頃、「博士課程まで進みたいけれど、経済面で不安が…」と他の研究室の博士の先輩に相談し、奨学財団について教えていただきました。その後、学業の成績や研究の実績を認めていただくことで、さまざまな奨学財団からご支援をいただき、おかげで安心して研究に没頭する日々を過ごせています。今後は学会参加費や海外活動費へのご支援もいただけるため、国際学会にも積極的に参加したいと考えています。
先生や先輩、両親、財団の方々など、多くの支えに感謝していますし、だからこそ「成果を出して恩返しを」という気持ちになります。副作用に苦しむ患者さんを助けたいという想いもあります。そして何より、私は研究が大好きで、すごく楽しいと感じています。そうして楽しみながらも、新たながん治療法の開発に繋がる知見が得られつつあるという実感が、さらに研究意欲をかき立ててくれます。自分の研究成果が、社会に貢献できるかもしれない。高校生の頃には、想像もつかなかったことです。そこに向けて、世界の研究者との交流など、さらに視野を広げながら成果を出し続けていきたいですね。

PROFILE

中島 梨夏さん

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大学院 理工学研究科 生命医化学専攻 博士課程 1年生
※取材当時

中島 梨夏
(なかじま りんか)

大阪府立千里高校(総合科学科)出身。小学生の頃から医療や医薬品に関心を持ち、「将来は病気の治療薬の開発に携わりたい」と考えるように。また理系科目が得意だったこともあり、高校進学の際はスーパーサイエンスハイスクール指定校を選択。さらにより専門的にヒトの疾患に関連する研究に取り組むため、関西学院大学理工学部生命医化学科へ。入学後はヒトの生体内での現象について細胞・分子レベルで基礎から学び、また実験・実習を通して座学で学んだ知識をより確かなものにし、一方で必修科目の英語の授業にも力を注ぐ。4年生からは、入学時から志望していた大谷清教授の研究室へ。以降、「副作用を抑えた新しい抗がん剤の開発」という研究テーマに打ち込み続け、2022年からは大学院修士課程、2024年からは博士課程に。その研究活動のなかで、新たな実験手法の確立など多くの成果をあげ、学会でも高い評価を受けている。また、戸部眞紀財団、G-7奨学財団、吉田育英会のドクター21といったさまざまな奨学財団から奨学金などの支援を受けており、戸部眞紀財団では学生委員も務めている。趣味はマラソン。中学・高校の陸上部で長距離ランナーとして活躍し、大学入学後も陸上サークルに所属して駅伝などの大会に出場。サークルから引退した大学院進学後も、全国で開催されるハーフマラソンやフルマラソンの大会によく個人で参加し、2023年12月に開催された「第35回三田国際マスターズマラソン」では女子29歳以下の部で優勝、2024年2月に開催された「第76回香川丸亀国際ハーフマラソン」では一般女子20代の部で3位入賞。ずっと「研究しているか、走っているか、どちらか(笑)」の毎日を過ごしているそう。

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