研究から探す

統計モデルを用いた金融データの解析。

※この記事は2023年1月に神戸新聞へ掲載されたものです。

■金融データ解析に有効

 岸田首相は2022年末、「来年は資産所得倍増プラン元年として貯蓄から投資へのシフトを抜本的に進める」と述べました。ところで、なぜ岸田首相は資産所得倍増プラン元年として貯蓄から投資へのシフトをと述べたのでしょうか? 文脈から考えると、貯蓄ではなく投資をした方が資産所得が増えますよ、という理屈のようです。

 確かに、お年玉を貯金箱に入れていても1年たっても増えませんし、銀行に1年預けたとしても利息は微々たるものです。逆に投資を考えると、例えば、1株100円の株式を1単位購入し、1年後その株式が千円に上昇した場合、「千から100を引いて900円」(手数料を除く)の利益となります。そうすると、もし1年後の株式を予測できるなら、断然、貯蓄をするより投資をした方がもうかるということになります。

株価の動きと変動幅

では、果たして1年後の株式を予測することが可能なのでしょうか? 図の赤線を見てもらうと分かりますが、株価は直線的に動くのではなく、上に行ったり下に行ったり小刻みに変動し、調子良く上がったと思ったら急に下がったりもします。例えば、18年後半に株価が上がって来たぞと思って株式を買ってしまったら、その後、どんどん株価は下がっていますので大変です。

 結論だけ述べると、株価はランダムウオークに従うので、株価を予測するのは非常に困難であると言われています。株価を予測するのが困難だったら、危険過ぎて株式投資なんてできないという人もいるかもしれません。

それでは、次に図の青線、つまり株価の変動幅のグラフを見てください。20年はじめのコロナショックなど突発的な変動(ジャンプ)がいくつも見られますが、傾向として青線は値が高いところと低いところがまとまっていることが何となく分かります。

 変動幅が小さいということは、損失は小さいですが利益も小さく(ローリスクローリターン)、逆に変動幅が大きいと損失は大きいですが利益も大きい(ハイリスクハイリターン)ということを意味します。そして、先に述べたように、変動幅は値の高い期間が房のようにまとまる傾向(ボラティリティクラスタリング)があるため、そのある種の規則性によって株価の変動幅はある程度予測可能であると言われています。

 このように、数理科学科統計科学研究室では、統計モデルを用いた金融データの解析を主な研究対象としています。

森本 孝之</span> 教授

MORIMOTO Takayuki

機械学習と金融市場分析を有機的に融合し、これまでの研究者が踏み込むことができなかった領域における新しい知見を得るための理論および実証分析を提示し実践する。