有機合成化学分野の登竜門
『大津会議』で奮闘!
大学院 理工学研究科 化学専攻 博士課程2年生
※取材当時
木之下 拓海 さん
有機化学を専門とする研究室で、新しい有機反応の開発に取り組んでいます。僕自身がテーマとして扱っているのは、第4級アンモニウム塩という化合物です。変換の対象にされることが少ない化合物ですが「ラジカルを活性種とすることで、面白い分子変換ができるのでは?」と着目。そうしてこの化合物の新たな可能性を探り続けてきたなかで、「植物に耐塩性を付与する新たな分子の発見」という素晴らしい成果も得ました。これを発端とした関連研究も、外部の植物学者との共同で進めています。今年9月には『第16回大津会議』に参加。有機合成化学分野の同世代の優秀な研究者たちとの議論を通して、自らの研究への手応えや今後の課題を改めて実感できました。
『大津会議』での発表や質疑応答は、すべて英語で行われます。「海外からの留学生も含め、集まった13人はすべて有機化学の研究者なのですが、研究内容やプロポーザルはそれぞれ異なっていて、非常に興味深く感じました。また会議後の懇親会でも、僕の研究内容に関心をもって話しかけてくださる方がいて、うれしかったです」。
有機化学研究には「思い通り」と
「偶然」の2つの面白さが。
地道な積み重ねの成果だからこそ、
発見への喜びも大きい。
研究をしていて楽しいのは、「こういう実験をすれば、こんな反応が起きるだろう」といった仮説と設計によって、目に見えないほど小さな分子を思い通りに動かせることです。有機化学ではいろいろな分子を扱うのですが、ただ化合物によって扱い方が異なるため、今の研究テーマに取り組み始めた大学4年生の頃は、あまり前例のない第4級アンモニウム塩をどう扱えばいいかわからず、苦労しました。この壁を乗り越えるため、僕が心掛けたのは基本に立ち返るということ。「どんな溶媒に溶ける?」「融点は?」と一つひとつ丁寧に調べていくことでこの化合物への理解を深め、扱い方についての答えを導き出していきました。研究には、基本を飛び越えた近道なんてありません。
大学院へ進学し、ずっと第4級アンモニウム塩の様々な反応開発を進め、そのなかで自分の設計とは違った成果として得られたのが、植物に対する有用性でした。こういうセレンディピティ(=偶然の発見)もまた、有機化学研究の面白さです。ケミストリー×バイオロジーによる新しい価値の創出となるこの研究成果は、アメリカの学術誌にも掲載されました。論文の完成までには、試行錯誤の連続でしたが、学会での受賞などたくさんの高い評価をいただき、心から頑張ってきて良かったと感じています。
研究室の中だけでなく、
広く社会へと視界を広げることが
「新しい価値を提供できる研究者」
としての成長に繋がる。
日本にも世界にも、優秀な研究者がたくさんいます。そうした人たちが集まる場に出て揉まれたいと考えて、有機合成化学分野の若手研究者による学術会議『大津会議』への参加を申し込みました。13名の参加者のうちの1人に選ばれたのは、とてもうれしかったです。実際に会議に出て、難しく感じたのは「将来どんな研究がしたいか」といったプロポーザル。これまで取り組んできた研究については学会で何度も発表してきましたが、これからの研究について、その新規性や意義、面白さを、上手く伝えることに課題を感じて、自分から新しい価値を生み出せる人材が求められている今、自らの研究を提案する力が必要だと実感しました。
研究室の中だけでは、気づけないことがあります。先に述べたセレンディピティも、共同研究によって有機化学の枠を越えることができました。有機化学では分子を作るということがゴールになりがちですが、植物への効果を調べる研究を通して、分子を作り、その価値を社会に提供するという自分の研究の意味と応用の可能性を実感できたのは良かったです。
目の前の数人を助けることより、時間はかかっても、未来の大勢の人たちに貢献できる人になりたい。いつからか、そんな想いを抱くようになりました。そのためにも提案力は重要ですし、まずは独りよがりな研究にならないよう、できるだけ社会に目を向け、ニーズへの理解を深めたいと思います。