難病“嚢胞性線維症”の解明と
治療薬の開発をめざして。
大学院 理工学研究科 生命医化学専攻 博士課程2年生
※取材当時
日向 大智 さん
僕が大学院の研究室で向き合っているのは、嚢胞性線維症という難病。遺伝子変異によってCFTRというタンパク質の機能が壊れて分泌液の粘り気が強くなり、免疫機構が壊れることで呼吸器不全を起こすと死に至ってしまう、といった恐ろしい病気です。現在日本で把握されている患者数は50人未満という希少疾患ですが、それだけに研究者も少なく、だからこそ僕はこの難病の発症メカニズム解明と治療薬開発を研究テーマに選んだのです。取り組み始めて5年目の今年、自らの研究成果を論文という形で発表でき、大きな手応えを得ました。こうした成果が根本的な治療法の確立や実際の医薬品に繋がり、必要とする患者さんへと届く日が来ることを願い、今後も努力を重ねます。
2023年12月に神戸で開催された第97回日本薬理学会年会では、自らの研究成果として開発した核酸医薬アンチセンスオリゴについて発表。嚢胞性線維症で壊れたCFTRの機能改善効果を紹介し、「優秀座長賞(ポスター)」を受賞しました。「今は順調に研究を進められている。それをどんどん形にしていくことが、当面の目標です」。
根本治療に向けて一歩ずつ
着実に成果を出し続けるなか、
日本科学協会からの助成も得て、
やりがいと責任を実感。
最近、CFTRが本来の機能を取り戻すのに有効な薬が、海外で開発されました。しかし非常に高価なうえ、効き目があまり長続きしないんです。この既存薬の効果の持続性を増強・安定化できれば、嚢胞性線維症の根本治療に繋がり、患者さんの負担も軽減できる。今はそこが、一番の研究課題となっています。
また、嚢胞性線維症は遺伝によってCFTRが壊れる先天性の病気ですが、後天的にCFTRが壊れても同じような病気になります。それが慢性閉塞性肺疾患(COPD)という、世界の死亡原因第3位の生活習慣病。僕たちの研究室では、このCOPDの治療に「嚢胞性線維症のために開発している治療薬が応用できるのでは?」という考え方でも研究を進めています。
先日僕が発表した論文は、この生活習慣病とCFTRとの関わりについてのものです。そして先に述べた既存薬の効果を安定化させる薬の研究についても、もうすぐ特許が取れそうなところにまで差し掛かっている。この研究には、日本科学協会から研究費助成も受けています。大学院生でそうした助成が得られる例は少ないですし、「それほど大きな期待を受けての研究ができているんだ」と実感でき、やりがいと責任を感じます。
何度も失敗を乗り越え、
博士課程まで続けてきた研究。
後に続く仲間たちにも、
いい形でバトンを渡したい。
博士課程に進んでからはいろいろな成果を出せていますが、ずっと順調だったわけではありません。失敗も多く、修士で立ち上げて2年間かけて進めてきた実験が中止になり、すごく落ち込みました。しかし、すぐに「やってやる!」と奮起して別の実験アッセイ系をもう一度立ち上げて、それが良い結果を生んだので、とても晴れやかな気持ちになれましたね。悔しさが、逆にモチベーションを高めてくれました。
研究室で出た「世界で初めて」の成果をいちばん初めに知ることができるのは自分自身。そこに研究者のロマンがあると、僕は思います。頭の中で想像していた結果がそのまま出た時などは、パズルがきれいに揃ったような爽快感がある。しかも国内では希少な研究テーマですし、研究成果を薬という形に還元できるというのも魅力的です。卒業までに論文をあと数本出して、次はその「薬をつくる」というところに集中して研究に打ち込みたいですね。そして自分で完結するだけでなく、よりテーマを膨らませて後輩にバトンを渡したい。その後輩が、僕の研究をさらに広げて論文を発表してくれたら、すごくうれしいです。