機械学習分野での
課題解決に挑み、学会で受賞。
大学院 理工学研究科 情報科学専攻 修士課程2年生
※取材当時
加藤 潤 さん
実世界の多様なデータの中にはグラフで表現できるものが多く存在します。このグラフを対象とした機械学習手法に、「グラフニューラルネットワーク(GNN)」があります。GNNは分類や予測などのタスクに取り組むことができ、SNSの分析などに広く活用されています。
GNN手法の一つとして「グラフアテンションネットワーク(GAT)」があり、GATにはニュートラルネットワークの層数を大きくするほど性能が逆に低下してしまう「オーバースムージング現象」と呼ばれる課題がありました。4年生の時からGATにおけるこの現象を軽減するための研究を進め、その結果、GATのオーバースムージング現象を防止する手法を提案。2023年8月に開催された「人工知能学会 知識ベースシステム研究会」で発表し、「知識ベースシステム研究会奨励賞」を受賞しました。
今回、提案した機械学習モデルでは、従来のGATでは困難だった、隠語を用いるなどの工夫をしてSNS投稿を行い、違法行為に及ぶ悪質ユーザーの判別が可能に。「僕が取り組んでいるのは基礎研究なので、この手法を多くの研究者に知ってもらい、さまざまな分野での応用研究が進むことで、社会の役立てばと思います」
難しくてよくわからなかった内容が、
だんだんと理解できていく。
そのなかで感じた高揚感や自信が、
研究テーマを選ぶきっかけに。
GATを活用すれば、SNSの投稿内容などからあるユーザーが悪質か優良かを判別する、といったことができます。ただ従来のGATの場合、大っぴらに詐欺行為や違法薬物の取引などをしているとわかるような投稿なら「このユーザーは悪質だ」と判別できますが、隠語を使ったやり取りなどに対処できるようモデルを深層化すると、オーバースムージング現象により「悪質か優良か」を判別する性能が逆に低下し、ユーザーが「悪質か優良か」のどちらに属するのかを正しく判別できなくなってしまいます。
猪口先生の研究室では、僕が入る前から、このオーバースムージング現象の課題と向き合ってきました。3年生の夏にここでプチ研究体験をさせてもらい、その時の修士の先輩がこの現象の研究をされているのを見せてもらったのが、この研究テーマとの出会いです。最初は説明を聞いてもよくわからなかったのですが、先輩から「この論文とこの論文を読むといいよ」などといろいろ教えてもらい、そうしたやりとりを繰り返すうちに自分にもだんだん内容がわかるようになっていくのがとても面白く感じられました。「僕もこの研究がしたい」。そんな想いを抱いて4年生から正式に猪口研究室に入り、オーバースムージング現象の研究に取り組むこととなったのです。
猪口先生に背中を押してもらい、
研究の道へと進んだことが
研究成果や受賞の栄誉だけでなく、
自らの人間的成長にも繋がった。
大学進学前からAIに興味があったため、AIやデータ解析を専門とする猪口先生の研究室にはもともと関心がありました。でも3年生の時には、就職か大学院進学かで迷っていました。その悩みを猪口先生に相談したところ、「もし研究に興味があるなら、実際に体験してみませんか?」とお話をいただき、そこから夏休みのプチ研究体験が実現。その時にGATのオーバースムージング現象と向き合う先輩と出会って、その先輩が現象を防止するための数理的性質を発見して、僕がこの性質を応用してGATにおいてこの現象を防止する手法を提案し、学会を通してその成果を世界へと発信して…。苦労も多かったですが、自分が研究した内容を発表し、研究者としての自分の名前も残せたことは、すごくうれしいです。
ただ、賞までいただけるとは想像していませんでした。しっかりとしたプレゼンができたことが評価されたのかなと思います。もともと人に説明するのは苦手だったのですが、同じ研究室のメンバーとの協働を重ねるなかで「前提となる相手が持つ知識をふまえ、どんな情報を伝えれば相手に理解してもらえるのか」が重要だと悟り、それが学会でのプレゼンにも活きました。僕自身のそんな成長に繋がる、最初のきっかけをくれた猪口先生には本当に感謝しています。挑戦してみたいと思えば、それを受容してくれる環境が、関学にはある。ここでの学びや経験のすべてを、社会でも活かしたいですね。